所感雑感の置き場

ゲームプランナーになりたい大学生が色々についての所感を書き散らす場所です。

「モチーフで読む美術史」についての所感

イラストレーター、あるいは画家が絵の中に描きこんだあらゆるものは基本的になんらかの意味を持つ。それは象徴であり、心情であり、告発であり、そしてあるいはスポンサーやクライアントの要望である。本書「モチーフで読む美術史」はそうしたものを我々素人が読み解くための手がかり足がかりを与えるものだ。あるモチーフの意味やその意味を持つに至った歴史が2ページにわたって記述され、その後にそれが描かれた絵画が掲載された2ページが続く、という形式で262ページにわたって様々なモチーフが紹介される。元は新聞連載として執筆されたものがベースとなっているため、一つ一つが独立しており、「少し読んでは手を止めそのモチーフが描かれた絵画を探してみる」といった楽しみ方ができることはこうした美術についての新書としては読者にとって嬉しい構造だ。紹介されるモチーフも、動物、有機物、無機物、概念、といった順番で整理されて紹介されており、カテゴリーごとに扱われ方の違いを考えてみたりすることもできるようになっている。

一度美術館に行き、本書を一読してからまた同じ美術館の同じ展示を見にいくと、1度目には気づかなかったことが「わかるようになった!」という感覚を味わうことができるだろう。あるいはなにかのアニメや漫画の一シーンを切り出して、「ここにかいてあるこの動物はこのキャラクターのこんな特徴を象徴しているんだ!!!!(グルグル目」なんて妄言をSNSで書き散らしてみたりすることもできる。そしてあるいは自分の手で本書のモチーフを使って象徴的な絵を描いてみるのもたのしいだろう。卑劣なアニメキャラクターの肩にネズミを走らせてみたり、インキュバスのキャラクターにウサギを抱かせてみたり、ただのファンアートとしてでもいいし、まったくのオリジナルでもいい。そうして描いたものは何も考えずに描いたときよりきっとあなたにとって思い出深いものになるだろう

 

以下では私が本書で紹介されたモチーフの中から3つ、興味深いと感じたものを感想とともにピックアップしてみた。

・葡萄

これは主にキリスト教における最も神聖な食物だそうだ。キリストが最後の晩餐でワインを自らの血だと言ったエピソードはとみに有名だ。さまざまな聖書のエピソードや歴史の流れの中で葡萄の木は人類の現在を贖うイエスそのものを象徴し、葡萄園は天国をあらわすものとなったそうである。個人的にはなんらかの物語のなかで、かつて繁栄し、地上の楽園と呼ばれた独裁国家や主義国家が「元は葡萄園だった」なんて表現されていたら実に皮肉で雅だなあと思う。

 

・魚

これもまたイエスキリストの象徴である。初期キリスト教でのキリスト教そのものやその信者のシンボルとなっている。これは本書内の内容とは全く関係ないのだが、エジプト神話では魚はオシリス神の完全な復活を妨げたものとして嫌われているそうで、同じものが一方では死後復活した救世主の教えの象徴となり、一方では神の復活を妨げたものとされる、というのは非常に興味深い。発生した地域のどちらにおいても魚は身近で重要な食料であったろうになぜこのような違いが生まれたのだろうと考えさせられる。

 

・雷

洋の東西を問わず、神の仕業・神の怒りとして表現される。ギリシャ神話のゼウスや北欧神話のトールは言うに及ばず、キリスト教においても天にある神の怒りとして表現される。今よりもずっと自然の事物にたいして人間の左右できる・影響を与えられる範囲が小さかった古代において、人智を超えてあり、どうしようもない雷に世界中のあらゆる人類が人ならざる大いなる力の存在を感じたことは、当たり前なのかもしれないが、住むところや考えや肌の色が違えど我々は同じ一つの種なのだと感じさせられて趣深い。